留学中の体調不良 腰痛などの体の不調への対処

留学中のお困りごととしては、健康問題、例えば、頭痛、首こり、腰痛、腱鞘炎、色々な悩みがあると思います。

ましてや慣れない海外での生活への適応、言葉のストレス、孤独感、スモッグなどの大気汚染など、色々なストレスへの対処が必要になります。

体を固めて生活する中で、体調を崩す人もいます。また練習を一生懸命するあまり、ピアニストの場合、腱鞘炎になったり、腰痛になったり、声楽家だと喉にポリープができたりということはよく聞きます。

そこで、私たちが経験した中でお勧めな対処をお伝えします。

目次

1. 脱力した奏法を身につける

まず、演奏家でよくありがちなことですが、体を固めて演奏している、という人が多いのではないでしょうか。

声楽家であれば、お腹のsostegno(支え)がしっかりあること、地に足をしっかりとつけること、は教わります。そしてその上で膝、腿あたりを緩めることを教わります。体を筒状にして緩みをうまく取り入れることを教える先生もいます。

ピアニストや他の楽器でも脱力はとても大事です。ピアノの場合、手首や指の脱力が音色の良し悪しを決めます。室内で演奏していても、ピアニッシモの音が遠くに飛ぶかどうかは分かりませんが、大ホールとなると誤魔化しが効きません。手首が脱力できているのかどうか、は音色の美しさに関わりますが、同時に腱鞘炎などの怪我のリスクを下げることになります。

支えがある状態で、脱力することは体の構造をよく理解した特別なトレーニングが必要です。その結果、声楽家であれば、声が伸びやかになり、ピアニッシモであっても遠くに飛ぶようになりますし、体や喉の負担も下げられます。その効果は、体験するしか理解することができず、必要があっても「必要だ」と理解するきっかけ、出会いが必要になります。

留学musicaのチームの一員である、ピアニスト照喜名良氏は、ピアノ脱力法メソッド®による脱力トレーニングを提供しています。これはあらゆる音楽家に必要となる床での脱力トレーニングを含んでおり、体を緩めるメソッドや、体の中にバルーンがあることをイメージして体の内側の筋肉を使うトレーニングを学ことができるので、どんな楽器を演奏する方でも受けることで効果を実感することができます。

腰痛などの怪我の予防にも効果的です。

声楽家が受けた脱力トレーニングの様子

2. 健康大国イタリアの代替治療

長年、頑張ってきた音楽学生で体が悲鳴を上げている人も実は多いのではないでしょうか。

腰痛、首こり、ヘルニア、色々な症状に耐えている人もいると思いますし、体の不調が蔓延化しているのが当たり前だから問題ないという方もいれば、30歳を過ぎて段々と不調が深刻化してくる、なんて方もいると思います。

体の状態は、メンタル面や演奏にも直結するものです。

その点、イタリアは心ぼそいのかと思いきや、その反対です。イタリア人は、健康オタクといってもいいほど、健康への意識や治療レベルが高く、利用方法を知れば、日本以上に充実した代替医療を受けることができます。

ただし、ある程度の語学力は必要ですので、不安な方は通訳をしてくれる友人と行くか、スマホで通訳を頼むのもいいでしょう。あるいは症状を紙に書いておく、Google通訳で会話する、必要な単語は書いたり覚えておくのもいいでしょう。ただし、次の予約もあるので時間や迷惑がかからない方法で。

接骨院

特にosteopata(整骨医)のドクター(D.O.)やバチェラーの学位を持っているクリニックはたくさんあります。イギリスのInternational College of Osteopathic Medicine (ICOM)で学位を取る人が多いようです。

治療経験を豊富に持っているイタリア人の友人は結構います。腰痛が良くなった、頭痛があまりしなくなった、体の色々な不調が改善した、あそこの先生は合わなかったが、ここの先生は良い、などイタリア人同士の情報交換が盛んです。時には中国人の針治療に行く人も。もちろん接骨医は日本人でも受診は可能です。ただし、下着姿になる必要があるクリニックがほとんどなので、服の下に下着の代わりに水着を着用していくことは必須です!

また、日本のように着替えが用意してあるところはほとんどありません!ジーンズで来るイタリア人が多い印象を持っていますが、更衣室がないところも結構ありますのであらかじめ水着着用しておき、さっと脱げるよう、スポーティブな格好がいいかも!

また数は少ないですが、アメリカのパーマー大学(Palmer College of Chiropractic)でドクターの称号であるD.C.(Doctor of Chiropractic)を取得した先生の治療を受けることもできます。料金は2021年時点で50ユーロから80ユーロくらいが相場でしたが、これはクリニックによります。保険はききません。

必要があれば、レントゲンを撮って持っていく必要があります。逆にレントゲンを要求しない治療家は専門性が劣るため、あまりお勧めできません。

立った状態でレントゲンを撮るのが望ましいのですが、腰痛などに不安のある人であれば、あらかじめ日本でとって、CDなどの記録媒体で受け取って、パソコンで画像を送れるようにしておくのがお勧めです。日本でカイロプラクティックの国際資格であるD.C(Doctor of Chiropractic)をとっているドクターのクリニックがお近くにあれば、そこでカイロプラクティックや整骨医の治療に適したレントゲンをとってくれるクリニックを紹介してくれますし、英語で診断書を書いてくれるドクターもいます。

私の場合は、大阪市のカイロプラクティックの日本人ドクター(パーマー大学卒)のクリニックに通い、提携している整形外科クリニックでレントゲンを撮ってもらい、治療を受けたことがあり、英語での診断書も書いてもらいました(有料)。そのおかげで、イタリアですんなりと治療を受けることができました。大都市であれば、D.C.の資格を持っているカイロプラクターはいるので、レントゲンや英語の診断書の発行は可能か、相談してみてはどうでしょうか。

私はミラノやその周辺でosteopataやD.C.の治療を受けましたが、通うほどに体が楽になって、生活の質が大きく向上した経験を持っています。

理学療法士

イタリアの国民健康保険に加入した人であれば、腰痛などであっても、かかりつけ医の診断を受けることができます。内科医などの専門外であっても、かかりつけ医はリファー(紹介)を専門業務としているので、地域の理学療法士を紹介してもらえます。

私の知り合いの場合は、かかりつけ医がレントゲン専門施設を紹介してくれ(総合病院を紹介されることもあるでしょう)、レントゲン専門医がどのような問題があるかの診断書を書いてくれ、レントゲンとともに渡してくれます。それを持ってかかりつけ医の診断を受け、症状によっては理学療法士(fisioterapista)を紹介してくれます。自分で出向く場合と、自宅まで来てくれる理学療法士もいました。

2023年より国民健康保険SSN(Servizio Sanitario Nazionale)に外国人学生が加入するには、滞在許可証を保持していることが条件ですが、年間700ユーロの費用がかかるようになりました。それまでは149ユーロだったので大幅なアップで、必須である留学保険に加えて任意である国民健康保険に加入することはあまり現実的ではなくなりました。SSNに加入するとTessera Sanitaria(健康保険証)がもらえ、地域のかかりつけ医のリストの中から、1人を選ぶことになります。

理学療法士のクリニックでは、どのような動きで痛みが発生するのか、専門医が検査をしたのちに、腰痛改善の運動療法が主に行われます。

検査では”fai cosi(こうして)”と背中をそったり、右に倒したりなど、動きを真似するように言われ、動きによって”male!?(マーレ、痛い?)”と聞かれるので、”si”や”no”、”un po’ fal male(ちょっと痛い)”などと答えます。

Tecar(テカル)セラピー

これも理学療法士の資格を持つ治療科が行う治療の一つですが、特殊な電気を流すことで血流を促進したり、筋肉をほぐすイタリア発祥のテクノロジーです。有名なアスリートが怪我の治療の補助やコンディション向上のためにとして行っていることでも有名です。

腰痛や首こりからくる頭痛や嘔吐、手の強張り、色々な症状で改善が期待できます。

ただ接骨院と違い、根本治療ではないので、定期的に通って症状を緩和する必要がありますが、症状が激しい場合には、2、3回ほどを目安に利用することを勧める接骨医はいます。

また、テカルだけでなく、Vibraという振動を利用して、ほぐしにくい首の前の筋肉や鎖骨周りの筋肉を緩め、深刻な頭痛や嘔吐などの症状を改善するテクノロジーや、グラストンテクニックやERGONというアメリカ発祥の筋膜リリースで、ステンレスの板状の道具を使ってほぐす治療をオプションとして行う理学療法士もいます。

心理療法士

腰痛でテカルセラピーに通っていた日本人の体験談を紹介します。イタリアの超有名なサッカーチームやオリンピック選手団の理学療法士をしていた先生のクリニックに通っていました。その先生は、体の状態を見て「頑張りすぎだから休憩や睡眠、休日の過ごし方などを工夫した方がいい」というアドバイスをくれていたのですが、「心理面のストレスから強張りが出やすい筋肉がある」とのことで、それは左右の骨盤あたりからほぐすことのできる大腰筋で、「精神の筋肉」と呼ばれているとのことでした。

海外生活でのストレスが影響しているので、ここに通うばかりではいたちごっこになる、ということで相談した結果、心理療法士を紹介してもらったそうです。

イタリアには、薬物治療を行うpsichiatra(精神科医)のクリニックとカウンセリングなどの心理療法を行うpsicologo(心理療法士)がいます。長期間のストレスは思っている以上に健康状態や日々のパフォーマンスに影響を与えます。強いストレスにさらされると3〜4ヶ月で適応障害と診断されるのは、日本のサラリーマンの間でもよく知られるようになりました。また、マイナスをニュートラルに戻すだけでなく、海外では有名なアスリートや企業家がカウンセリングを受けることでパフォーマンスをさらに上げているのも有名な話です。

個人差はありますが、筋肉の強張りにも影響しますし、留学生活をよりスッキリと過ごし充実したものにするにもお勧めです。ただし、長年イタリアに在住している人でなければ、語学力が必要なことなので、オンライン対応している日本人の心理カウンセラーをお勧めします。

最近では、かなり専門性が高いのですが、ポリヴェーガル理論という交感神経と副交感神経の緊張の調整をメインとしたソマチック(身体的)心理学のアプローチを得意とする心理士がいて、日常生活の緊張の緩和だけでなく、演奏時の緊張の調整や緩和といったコントロールにも役立つと個人的には考えています。心の安定化の方法として、グラウンディング、マインドフルネスなどの様々な効果的な手法を教えてくれる心理士もいます。

さらに進んで、トラウマ治療を行うことができる心理士もいます。この辺りは心理カウンセラーと言っても国家資格である臨床心理士や公認心理士の資格を持っている人にしかできないので、資格を一つの目安とすると良いです。

栄養管理士

イタリア人はダイエットや体調改善のために栄養管理士であるnutrizionista(ヌトゥリツィオニスタ)を利用する人が多いです。

外国人留学生にとっては、どんな食べ物が良いのか、胃腸の調子を崩さない、体調を維持する、大事な時に体調を崩さない、あるいはダイエットをする、などの目的で利用価値は高いといえます。

ちょっとふっくらしていたイタリア人の友人が、半年ぶりに会うとすっかりスマートになっていたことがありましたが、栄養管理士が作ったメニューや食べる量、食べていい食材、食べない方がいい食材のリストに沿って食事をしていたそうです。

イタリアでも質の悪い食べ物と良い食べ物は入り乱れていますし、食べ物やハーブティー、サプリメント、腸内有益菌などを摂取する自然療法の知識は非常に高いものがあり、日本以上と言えるかもしれません。なぜなら、イタリアは古来から主に修道院がハーブなどの植物の効能を研究し栽培しており、漢方のように膨大な知識が蓄えられていた伝統があるからです。

薬だけでなく、その知識と研究のおかげで生まれたものとして、オーデコロン(ケルンの水の意味)があります。ケルンの水というのは、ドイツのケルンの王侯貴族のために開発されたという歴史があるそうです。イタリアではケルンの水をacqua di colognoと言います。

現代においても、その探究熱は継承されており、イタリア語で調べれば自然療法の知識に困ることはありませんし、スーパーでも様々な種類の乳酸菌やハーブが売っており、スーパーに併設されているドラッグストアで悩み相談をすれば、それに適したサプリメントや乳酸菌の種類を紹介してくれます。

そんな食事療法や自然療法が盛んなイタリアですが、全国で1000人ほどのnutrizionistaがいると言われています。2~3回で終わる人もいれば、1年以上定期的にコンサルを受ける人もいます。コストは人により、地域によりまちまちですが、平均で最初のコンサル料で90〜100ユーロ、2回目以降で平均50ユーロ程度、半年で350ユーロほどと思っておけば良いと思います。ただし、これは地域によってまちまちですので、事前に料金感を聞いておく必要があります。

その他

このように色々な代替治療を紹介しましたが、ヨガ講座や腰痛改善メソッドであるピラティスの専門施設もあり、イタリア語ができ、知り合いが増えれば、イタリアには色々な施設や専門家が豊富にいて、困ることはほとんどないはずです。

風邪など具合の悪い時は、薬局(緑色の十字の看板が目印)で症状を説明すれば、それに合った薬を買うことができます。ただし処方箋が必要な薬に関しては、病院にいく必要があります。外国人の場合どうすれば良いのか、公立と私立の病院の違い、突然の怪我などのトラブルの場合に夜間診療や急患を利用したり、118番で救急車を呼ぶこともあるでしょう。それについては、次の記事でご紹介する予定です。

体調管理は留学生活でとても大事なことです。言葉が不自由で海外生活への適応ストレスが高く、イタリアの食品に関する情報も持ち合わせていない時期は、大家さんや語学学校に頼ったり、信用できるイタリア在住歴の長い日本人やイタリア人の友人を持つことも大切ですし、上記のような専門家に頼る必要があります。

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